杯

満たされた杯には もう何も入らない

こぼれ落ちたものを追いかけるよりも

新しい希望で杯を満たそう



終わって欲しくないことも

やがて終幕を迎えるけれど

終わるからこそ

また始まることができる



だから

悲しみが癒えたころに

迎えに来るよ

抱擁

逢えるときが限られているからこそ
つのる想いすらも媚薬となって
また二人を狂わせてしまう

この指で君に触れ 口づけるたび
押し殺しても漏れてしまう吐息
そして高まってゆく鼓動

抱擁の果てにたどりつく瞬間
そのときの君は誰よりも美しい

ほんのひとときだけど

今 君のぬくもりは僕だけのもの

Commencement de l'apres-midi d'ete

梅雨も明けようという頃

晴れてるとも曇ってるとも言い難い

とある休日の午後

特に為すべきこともなく



東向きの和室の障子を

人目も憚らず開け放ち

ひんやりとした畳の上に寝転がる

通りかかる車の騒音は少々気になるが

時折吹き込む風が心地よい



やがて天井の節目を数えるのにも飽きて

懐をまさぐれば

つぶれたソフトケースに煙草が二本



「よいしょっと」

100円ライターを探すが

見つけたものはどれも火が点かず

「まあいいか」

少しひしゃげた煙草は元のケースに押し込まれ

私はまた部屋の障害物になる







そうこうしている内に電話は鳴り

幸福なひとときは 突然の終焉を迎えた

贅沢な悩み

人から見たら「贅沢な悩み」と

一笑に付されるに相違ない



しかし

幸福と云ふものは 飽きるのだ

完成してしまつたら

満足してしまつたら

その先には何もない


これだけのものを手にしてなほ

私は別の道程を模索する

梅雨のスナップ

「ん～......こういう雰囲気ってほんと苦手なんだよね～」
あんたはポリポリと頭を掻きながら言う。
何か真剣に悩んでいるように見えても
本当はどうやってやり過ごすかしか考えてない。
そんなの見え見えだよって言ってやりたくなる。

こうなったのは誰のせい？
こんなに重～い重～い雰囲気になっちゃう原因を作ったのは誰ですか？
あたしだってこんなの好きじゃないんだよ。
あんたがはっきりしないで逃げ回ってばかりいるからでしょ？

ほんとにすっきりしなくて、何だか馬鹿らしくなってきた。
何を言ってもあんたの底の浅さと優柔不断さは
全然直りそうにないし、
それであたしがいつも問い詰める羽目になるのも
もういいかげん飽きちゃった。



いっそのこと、梅雨が終わる前に
こんな気持ち放り出して、すかっとしちゃおっかな～？
とりあえず週末の美容室の予約を入れとこっと。